映画感想『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』原作続編として完璧な劇場版!

2016年4月に公開された遊戯王20周年記念作品『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』。

原作終了12年を経て、20周年アニバーサリーとして製作された本作は「原作漫画の正当な続編」に位置付けられます。

遊戯王劇場作品として高評価を受ける『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』の概要・あらすじ・魅力を1つ1つ解説していきます!

『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』とは?

『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』は2016年4月に公開された、遊戯王20周年記念の長編映画。過去3作の遊戯王映画作品と異なり、『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』は初の原作者・高橋和希氏によるシナリオ書き下ろし&総監修作。

正統な原作漫画「遊☆戯☆王」の続編となる長編映画に位置付けられています。1996年9月30日から2004年3月8日の間に、週刊少年ジャンプ誌に連載された「遊☆戯☆王」。12年の月日を経ての、「遊☆戯☆王」の続編発表に公開前は不安の声も上がっていました。

特に懸念点として指摘されていたのは、やはり闇遊戯(アテム)の存在。闇遊戯(アテム)との決別の儀式を経て、彼の魂を冥界に還す役割を終えた武藤遊戯。原作の開始当初は情けなく、自分に自信を持てない存在だった武藤遊戯は一人の人間として大きな成長を遂げています。

物語が美しく帰結を迎えた中、安易に闇遊戯(アテム)が帰還すれば原作漫画のメッセージ性は損なわれます。とはいえ闇遊戯(アテム)が一切登場しない初代遊戯王の映像作品は物足りないのも事実でしょう。初代遊戯王の魅力の大きな部分を、大胆不敵で底が知れない闇遊戯(アテム)の知性とデュエルシーンが占めています。アテムを復活させてはいけない。しかしアテムが居なくては物語を展開できない。この二律相反をどのように解消するのか。

『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』は企画段階からして、難しい課題を課せられています。そしてこの課題を見事にクリアした傑作こそ、まさに本作なのです。

監督


監督を務めるのは桑原智氏。『遊☆戯☆王ZEXAL』にて監督・絵コンテを担当。遊戯王シリーズ以外の作品では『五等分の花嫁』などで監督を担当。1988年に手塚プロダクションに入社し、『鉄腕アトム』『ブラック・ジャック』など、手塚治虫原作作品にスタッフとして多く参加していることでも有名です。

スタッフ

総作画監督を担当するのは「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」で絶大な人気を誇ったアニメーター・加々美高浩氏。加々美氏の手によって、回想シーンの一部という形ながら「闘いの儀」が描かれます。

大迫力のデュエルを劇場のスクリーンで鑑賞できる点も魅力です。「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」を見ていた方であれば、本作を観る価値は間違いなくあります。「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」の美麗作画が15年の月日を経て、進化した3DCG技術で蘇っています。

シナリオは原作者・高橋和希氏の描き下ろし

繰り返しになりますが、シナリオは高橋和希氏の描き下ろし。高橋和希氏は製作総指揮を務めており、本作を総監修しています。高橋先生の初代遊戯王に関する新作が貴重なものであることは、言うまでもありません。

ちなみに高橋先生が書き下ろした本作の初期シナリオは、4時間越えの超大作だったそう。尺を2時間弱に調整するためのブラッシュアップ作業に多くの時間を割いたとのことで、本作のストーリーは無駄がなく、スマートでメリハリがあります。

『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』あらすじ


『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』の簡単なあらすじは下記の通り。物語は原作漫画からの続編に位置付けられているため、本作を見る前に、原作漫画を読み返しておくと良いかも知れません。特に本作の影の主人公は海馬であると言っても過言ではありません。漫画版における「海馬とアテムの関係」に着目して読み返すと一層楽しいですよ。

 

物語は原作終了後から1年後の童実野町。武藤遊戯らはアテムとの決別を経て、穏やかに日常を送っており間もなく高校の卒業式を迎えます。

一方、闇遊戯(アテム)をライバルと捉えていた海馬は、冥界に還ったアテムに対して勝ち逃げされたような苦々しい気持ちを抱えています。海馬は海馬コーポレーションの全財力を使い、アテムの復活に奔走します。しかし海馬の前に謎の組織「プラナ」が立ちはだかります。

劇場特典カードは《守護神官マハード》

効果モンスター
星7/光属性/魔法使い族/攻2500/守2100
(1):このカードをドローした時、このカードを相手に見せて発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードが闇属性モンスターと戦闘を行うダメージステップの間、
このカードの攻撃力は倍になる。
(3):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン」1体を選んで特殊召喚する。

劇場特典カードは《守護神官マハード》。マハードは六神官の一人で、後のブラック・マジシャンです。

劇場での配布期間は、2016年5月14日~5月20日。上記の期間は確実に入手でき、以後劇場上映終了までは1/4の確率で入手可能でした。

『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』は原作遊戯王の正統な続編

『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』の影の主人公は、先にも書いた通り海馬です。アニメ「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」において海馬はアテムとの別れに対して、ある種の覚悟を固めており、納得感を持って見送っています。

一方で原作の海馬はどうでしょうか。原作の海馬はバトル・シティ編で出番を終えており、王の記憶編では前世の海馬が「神官セト」として登場。その後は最終回に登場したのみであり、アテムを見送ることは出来ていません。

つまり海馬にとっては、闇遊戯(アテム)に最後に対面したのはバトルシティ準決勝での敗戦。『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』の海馬は闇遊戯(アテム)を一心不乱にライバルとして求め続けており、執着を抱いています。

「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」を観ており、原作未読の方はもしかしたら海馬の振る舞いに違和感を抱くかも知れません。しかし上の背景知識を持って鑑賞すると、海馬の執念を軸にドライブする物語に引き摺り込まれていくことでしょう。

 

ちなみにアニメと原作漫画のその他の主な違いは以下の通り。

  • 原作でのカードゲームの名称はM&Wだが、アニメではデュエルモンスターズ
  • 原作では生死が曖昧にされてるペガサスが、アニメでは生存している

ペガサスについてはこちらの記事で詳しくまとめています。

ペガサス・J・クロフォードとは?使用デッキ・過去・シンディアとの関係・セリフを徹底紹介
ペガサス・J・クロフォードとは マジック&ウィザーズの創始者 ペガサス・J・クロフォードはマジック&ウィザーズの創始者です。マジック&ウィザーズはアニメ・漫画「遊戯王」に登場するカードゲームで、遊戯王OCGのベースになったTCGです...

闇遊戯(アテム)の復活に全財力を費やす海馬


原作ストーリーの最後で冥界へと帰還したアテム。本作は原作ストーリーのラストからスタートし、序盤で「海馬VS記憶の闇遊戯」が描かれます。アテムに執着する海馬が、記憶から創り出した闇遊戯(アテム)とデュエルをします。

この場面で嬉しいのがBGM!アニメシリーズで使用されていたBGMがリアレンジされ、オーケストラサウンドによるゴージャスな仕上がりになっています。劇場で鑑賞するとズシンとした低音が響きます。

闇遊戯(アテム)復活計画への狂気じみた熱意が序盤の見所

記憶の闇遊戯(アテム)とデュエルした海馬は、なんとデュエルに勝利してしまいます。海馬が対戦していた相手はあくまで記憶の中の闇遊戯であったことが明かされると、海馬の胸のうちが透けて見えます。たとえ記憶の中の闇遊戯に勝利しても、真にアテムに勝利したことにはならない。

海馬のアテム復活にかける狂気じみた執着をうかがい知れる場面です。

このように書くと「社長の登場シーンなのにシリアスすぎないか…?」と心配する方もいるかも知れません。デュエルシーンのドローや召喚時の絶叫はアニメシリーズそのままです。しかも本作の社長は冒頭、なんの説明もなくいきなり宇宙空間に佇んでいます。原作ラストシーンから1年間で宇宙エレベーターを開発する海馬コーポレーション。技術力が高すぎます。

原作の残された謎が明かされていく中盤

中盤からは原作の明かされていなかった謎や登場人物の設定が次々明らかになる、原作補完要素のオンパレードです。シャーディーの過去や、設定のみが明かされていたバクラの父親の登場があります。獏良了/闇バクラのプロフィールや正体についてはこちらの記事でまとめています。

獏良了/闇バクラとは?盗賊王の意志を持つ最強の策略家!デッキ・使用カード・プロフィール解説
獏良了/闇バクラとは? アニメ『遊☆戯☆王』に登場するキャラクターのひとり、獏良了。 遊戯たちの通う高校へ転校してきた静かでおとなしく、可愛らしい少年です。手先が器用なことが長所のひとつ。モンスターワールド編のジオラマや、記憶戦争...

久々に城之内の顎も見れる

こちらは完全に小ネタですが、遊戯王DMの作画名物だった「城之内の顎」も久々に見れます。遊戯王の魅力は戦略性の高いデュエルだけでなく、キャラクターの人間臭さやバカバカしさ、ちょっとした日常シーンにも詰まっています。

中盤の展開はまさにファンサービス三昧といっても過言ではありません。

海馬VS表遊戯、アテムの復活

終盤の目玉は海馬VS表遊戯と、アテムの復活。

まず海馬と遊戯のデュエル。これまで海馬は表遊戯をライバルとして認めておらず、あくまでライバルとみなしているのはアテムでした。しかし海馬と表遊戯のデュエルで、海馬はこれまで一度も表遊戯を相手に見せたことがなかった表情をします。もちろんセリフづかいや声優の力量もありますが、何よりも表情で海馬の心境の評価を表す作画の力量が素晴らしいと感じます。

そしてアテムの復活。この場面と、その後の表遊戯とアテムの対面シーン。これは本編を観てください。まさに「これしかない!」という場面です。安っぽいヒーローの復活とは全く違う仕上がりです。遊戯王最終回の感動の後に続く、成長した表遊戯とアテムの物語が短いシーンに詰まっています。

本編ラストの海馬の運命も非常に考察のしがいがあります。本作終了後、海馬はどうなったのか?本編を見て、思いを巡らせてみてください。原作漫画で美しい最終回を迎え、イニシエーションを済ませ、成長を遂げた遊戯。物語を終わらせることが出来なかった海馬。後者の執着や呪詛じみた感情がしっかりと表現されたが故の、ラストだったと感じます。観る人によって考察や、その後の展開予測も異なるでしょう。考察の余白が適度に残されている、見事なエンディングです。

作画の完成度が神がかり的

繰り返し述べていますが、130分に渡って作画は神がかり的です。ハイクオリティな映像の中には1カットで1300枚を費やした場面もあるそうです。また高橋和希氏自らが描き下ろしたカットも本編には使用されています。

原作遊戯王と以後の続編の違いとは?


『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』を鑑賞した初代遊戯王のファンの方であれば、本作こそが遊戯王であるという印象を抱くでしょう。一方で初代遊戯王以外の続編シリーズに対しては、楽しみつつも仕上がりに若干の違和感を抱くこともあったのではないでしょうか。

遊戯王は「カードゲーム漫画」ではない

『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』の「初代らしさ」を支える最大の要素の1つが、カードゲームはギミックであり、キャラクターのぶつかり合いこそがメインというものです。

初代遊戯王は、カードゲームに限らず様々な「闇のゲーム」を描いた漫画でした。カードをはじめとする様々なゲームを通じてキャラクターが成長する格闘漫画が「遊戯王」なのです。

武藤遊戯はM&Wに限らず、様々なデュエルを経験することで成長を遂げ、アテムとの別れという通過儀礼を済ませました。原作者の高橋和希氏も元々遊戯王は自分の中で完結した作品であったことを認めた上で「海馬について、もう少し描いてみたいと思った」と述べています。主人公・武藤遊戯の物語は元々完結しているのです。遊戯王の続編を描くのに必要な要素は、緻密で戦略性が高いデュエルではなく「成長することができなかったキャラクターの成長を描くこと」でした。

その意味で、本作は遊戯王の続編を描くにあたって必要な要素を余すことなく詰め込んでいます。あえて言うならばやや中盤は詰め込みすぎで、ぶつ切りの印象が否めませんが、それ以外の要素が十分に魅力を補填しています。本作は間違いなく、歴代遊戯王の劇場シリーズの中で最高傑作です。

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