遊戯王はつまらない?
2019年2月に20周年を迎えた遊戯王OCG。しかし近年の遊戯王は「ソリティア」などと揶揄されるように環境の高速化が進み、最短で1キルできるなど欠点が指摘されることも。このことから「オワコン」「つまらない」との声も上がっています。
また度重なるマスタールール改定やリミットレギュレーションによって、ユーザー離れが起きているとの指摘も多いです。現代の遊戯王OCGは本当につまらなくて、オワコンなのでしょうか。1つ1つ見ていきましょう。
遊戯王カードは本当にユーザー離れが起きているのか?
まず「遊戯王カードはつまらない」「遊戯王カードはオワコン」という指摘が本当に正しいのか、カードゲーム業界全体の売り上げから検証してみましょう。
2019年2月カードゲーム業界データでは遊戯王OCGの売り上げが圧倒的
データは全て、メディアクリエイト様のデータを一部使用許可を得て使用しております。
◯後一ヶ月で「今期」の一年間データが揃います。
◯遊戯王OCG大躍進! pic.twitter.com/kbxIkBpXdI
上記のツイートは2019年2月のカードゲーム業界全体の売り上げ集計データです。
2019年2月カードゲーム業界販売実績(メディアクリエイト) | 販売金額 | 昨年比 |
遊戯王OCG | 53億2千万 | 148.47% |
ポケットモンスター | 12億2千万 | 545.97% |
デュエルマスターズ | 9億1千万 | 70.50% |
バトルスピリッツ | 3億8千万 | 105.83% |
ヴァイスシュバルツ | 3億3千万 | 62.01% |
ヴァンガード | 2億1千万 | 30.13% |
バディファイト | 2億 | 49.20% |
MTG | 1億5千万 | 169.99% |
ウィクロスTCG | 1億2千万 | 87.99% |
ラブライブ!スクコレ | 6千万 | 242.51% |
Z/X | 5千万 | 139.67% |
リセ | 3千万 | 134.01% |
ファイアーエムブレム | 1千万 | 59.38% |
カオス | 1千万 | 45.66% |
プレシャスメモリーズ | 9百万 | 118.91% |
2019年2月のカードゲーム業界の売り上げデータを見ると、カードゲーム業界のシェアは「遊戯王OCG」「ポケモンカード」「デュエルマスターズ」の3強であることがわかります。近年人気が急拡大しているポケモンカード(ポケカ)は昨年比545.97%の急成長。一方で成長に陰りが見えるのがデュエルマスターズ。
そして、3大タイトルの中でも販売金額が圧倒的に大きいのが遊戯王OCGです。遊戯王OCGが圧倒的な売り上げを記録した理由には、20周年を迎えた遊戯王の主力商材の充実ぶりが挙げられるでしょう。
遊戯王OCG主力商材は「インフィニティ・チェイサーズ」「20th ANNIVERSARY LEGEND COLLECTION」
2019年2月の遊戯王OCGの主力商材は「インフィニティ・チェイサーズ」「20th ANNIVERSARY LEGEND COLLECTION」の2つでした。
「インフィニティ・チェイサーズ」は人気テーマ「ウィッチクラフト」に焦点を当てた内容。特に人気カード「ウィッチクラフトマスター・ヴェール」は『遊戯王モンスターアートボックス」にも収録されます。
「20th ANNIVERSARY LEGEND COLLECTION」は、この商品単体で27億円の売り上げを記録。20周年を機に遊戯王OCGの人気全体が復調する予兆を見せているとも言えるのではないでしょうか。初期テーマの人気の高さを見せつけたとも言え、遊戯王OCGの歴史の深さと人気の堅調さを物語ります。
過去にはリンク召喚・マスタールール改定でファン離れが起きた年も
日本のカードゲーム業界の販売実績を見る限り、圧倒的な存在感を誇る遊戯王OCG。しかし、その道程は必ずしも順風満帆ではありませんでした。
過去にはリンク召喚の導入やマスタールール改定で、ファン離れが起きた年もありました。後述するように環境の変化・ルールの変化が遊戯王が「オワコン」「つまらない」と呼ばれる理由を作ってしまったことも事実です。続いて遊戯王がオワコン・つまらないと言われる理由を1つ1つ見ていきましょう。
遊戯王がオワコン・つまらないと言われる理由
先行制圧
現代の遊戯王OCGは、先行が極めて有利です。豊富なドローソースを投入したデッキであれば1ターン目から大量ドローが可能。先に盤面を固めることができる上、盤面を固めるに当たって《灰流うらら》や《エフェクトヴェーラー》のような手札誘発以外のカードの妨害を受けることもありません。
また1ターン目に《終焉のカウントダウン》を発動するなどして全体のデュエルの流れを誘導することも可能。相手は必然的に先行に合わせて次の展開を考える必要が出てきます。デッキと初手によっては1ターン目でおおよその勝負がついてしまうことも珍しくはありません。
先行1キル
遊戯王OCGは時に「じゃんけんゲー」と揶揄されることがあります。遊戯王は手札によって先行1ターン目で1キルが可能です。
例えば先行1キルの歴史としてもっとも有名なコンボの1つに「図書館エクゾ」があります。キーカードである《王立魔法図書館》の効果は以下の通り。
効果モンスター
星4/光属性/魔法使い族/攻 0/守2000
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、
自分または相手が魔法カードを発動する度に、
このカードに魔力カウンターを1つ置く(最大3つまで)。
(2):このカードの魔力カウンターを3つ取り除いて発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。
魔法カードを発動する度に魔力カウンターが溜まり、魔力カウンターを3つ貯めると自分はドローできます。召喚ターンに魔法カードを発動し続け、魔力カウンターを貯め続けることで延々とドローし続け、エクゾディアを揃えきることを目指します。
サンプルレシピを載せます。対戦相手からすれば「自分にターンが回ってこないまま、相手が延々とドローし続ける」状況が延々と続き、そのままエクゾディアパーツを揃え切られてしまうことになります。こうしたデュエルは確かに「つまらない」と感じる人がたくさんいても仕方ないでしょう。
モンスター | 枚数 |
エクゾディアパーツ(制限) | 各1枚ずつ |
青眼白龍 | 3 |
伝説の白石 | 3 |
ドラグニティ―ブラックスピア | 2 |
王立魔法図書館 | 3 |
魔法・罠 | 枚数 |
超再生能力 | 3 |
トレード・イン | 3 |
調和の宝札 | 3 |
竜の渓谷 | 1 |
テラ・フォーミング | 1 |
一時休戦 | 1 |
貪欲な壺 | 1 |
強欲で謙虚な壺 | 1 |
成金ゴブリン | 3 |
手札抹殺 | 1 |
闇の量産工場 | 2 |
死者転生 | 1 |
魔法石の採掘 | 1 |
リロード | 1 |
大会環境がガチすぎる
遊戯王OCGはトレーディングカードゲームのため、基本的にはカードショップや友人の家などにカードを持ち寄りデュエルすることになります。
カードショップでのデュエルは大会向けにデッキを仕上げているデュエリストもいれば、あくまで楽しむことをベースに考えファンデッキを組んでいるデュエリストもいます。大会勝利を目指したガチデッキでは展開が極めて早く、先行制圧で盤面を覆せない展開がごく当たり前のものです。
するとどのような問題が起きるでしょうか。
大会向けデッキとファンデッキの実力差が大きすぎる
カードショップでのデュエルは大会向けデッキとファンデッキの実力差が大きすぎるという問題が生まれやすいです。もちろん大会ごとに「初心者向け大会」を組むなど様々な工夫を凝らしてはいますが、特に地方ではそもそも周辺環境のプレイ人口が少なく、無闇に参加者を絞ってしまうと大会そのものが開催しづらくなる弊害も。
トレーディングカードゲームでありながら、自分の実力に合った対戦相手をやや見つけづらい環境であると言えるかもしれません。この点は個人的に考えた改善策を後述したいと思います。
手札誘発に賛否両論
先ほど先行1キルの弊害を説明しましたが、先行優位への強力な対策となるのが「手札誘発」カード。フィールドにセットすることなく手札からリリースすることで効果を発動できるカードのことです。手札誘発は基本的に条件を満たせば、相手ターンでも効果の発動ができます。
しかし、この手札誘発の存在が遊戯王OCGをつまらなくしているという批判があります。
手札誘発は何故つまらないと言われるのでしょうか。手札誘発と同じく、相手ターンに効果を発動できる罠カードと比較すると批判の原因が見えてきます。
罠カードはドローした後、魔法・罠ゾーンに一度セットするという工程を挟みます。セットしたターンには効果を発動できないため、相手によって除去されるリスクを備えています。また「相手がセットした罠カードは何か」という読み合いが発生します。
除去のリスクが発生することから罠カードをセットする際には「除去リスクがあってもセットすべきか」を検討する必要も出てきます。また除去を防ぐためには《神の宣告》等のカードも必要です。たとえば《ハーピィの羽根箒》の発動を《神の宣告》によって防ぐべきか否か。ライフコストの半分に見合うかどうかを検討するのが読み合いの醍醐味です。
一方で手札誘発にはこれといったコストがなく、突発的に発動される上に、これといった対策法が確立されていないのが現状です。読み合いの要素が少なく「つまらない」という批判が起きています。
個人的な意見として、上記の批判は極めて真っ当なものだと考えます。
ただし現代の遊戯王の環境は手札誘発を禁止・制限するのではなく、対策を確立する方向に向かうとも予想します。
例えば《増殖するG》は《マクロコスモス》の発動下では発動できないため、《マクロコスモス》は手札誘発の対策手段の1つとして既に確立しています。
一方で《灰流うらら》は《マクロコスモス》では防げません。《手札誘発》対策に特化したカードが以後、より増えてくるのではないでしょうか。
罠カードが使いづらい
前述の通り、環境の高速化に伴い、罠カードの採用枚数は減少傾向。代わりに手札誘発の採用枚数が増え、さらに環境が高速に。最短で先行1キルを目指すことができるのが現代の遊戯王の環境です。
罠カードを通じた駆け引きに遊戯王の醍醐味を感じる人にとっては、やや物足りなさも感じるでしょう。
ただし現代の環境はリンク召喚による大量展開を通じたビートダウンがメイン。《センサー万別》など大量展開への対策カードも登場している他、大会環境でチェーンバーンデッキが優勝するなど興味深い流れも出てきています。
召喚方法が多すぎる
遊戯王の主な召喚方法には、2019年9月現在以下のものがあります。
- 通常召喚
- アドバンス召喚
- 儀式召喚
- 融合召喚
- シンクロ召喚
- エクシーズ召喚
- ペンデュラム召喚
- リンク召喚
特にリンク召喚とペンデュラム召喚はマスタールール改定時に波紋が大きく「不要なルール」「増やすべきでは無いルール」と強い抵抗感を引き起こしたルールでもあります。
召喚方法の1つ1つ自体は決して難しいものではありませんが、初心者にとって大きな障壁であることも間違い無いでしょう。ルールブックとカードをいきなり渡された初心者がルールを理解することはほぼ不可能でしょう。
ゲームスピードが早すぎる
トレーディングカードゲームとして遊戯王OCGのもっとも特異な要素は何か。管理人は「マナ要素が存在しないこと」だと考えます。
マナとは一言で言えば、カードのコスト。MTGでは「マナ」が該当し、ポケモンカードでは「エネルギーカード」が該当します。
MTGでは「マナ」を生み出すには土地カードが必要。土地カードをタップすることでマナが生み出される一方で、土地カードそのものにはこれといった能力がなく、投入枚数のバランスが重要です。
MTGにはカード一枚の発動ごとにマナコストが決まっています。つまりカードを発動するためにはコストが必要なのです。重いカードを発動するためにはまず土地を揃えてマナを生み出す必要があり、必然的に対戦は長くなります。
一方では遊戯王にはマナの概念がなく、カード一枚あたりの発動コストも(カード自体に追加コストや条件が明記されている場合を除いては)存在しません。よってゲームスピードが圧倒的に早くなりがちです。「展開の速さ」「マナの概念がないこと」は遊戯王の長所でもありますが、この点が弊害でもあるのです。
他のTCGであればマナシステムとターン経過の兼ね合いによってゲームスピードが調整されるのに対して、遊戯王は特殊召喚で強力なカードが即時に展開されるからです。マナとマナカーブに関する考え方は、下記の記事でより詳しく解説しています。
インフレそのものは実は緩やか
遊戯王の先行制圧や先行1キルは、しばしば遊戯王OCGのカードのインフレによって引き起こされると批判されがちです。しかし誕生から20年を迎えるカードゲームで、カードの各能力がインフレするのはある程度は仕方ないことでもあります。
つまり遊戯王OCGの現環境に問題があるとすれば、それは各カードのインフレではなく、ゲームバランスに原因がある可能性が否めません。
遊戯王OCGはマナの概念がないことで、元々展開が早くなりがちです。展開が早くなりやすいという性質に加えて、ペンデュラム召喚・リンク召喚など数え切れないほどの召喚手段が存在します。このように早期決着を目指すゲームバランスが取られている一方で、先行1キルを可能とするカードは禁止カード化されています。
遊戯王OCGが引き続き早期決着を目指すのか、それとももう少し時間をかけたデュエルを目指すのか。そうしたゲームバランスの方向性が見えないことは大きな問題でしょう。
禁止カードが多すぎる
禁止カードが多すぎることもまた問題でしょう。20年の歴史がある遊戯王OCGは各カードにコレクターズアイテム的な価値があります。しかし禁止カード化やエラッタが相次ぐと、カードの価値が大きく変わってしまいます。
「つまらない」と言われる遊戯王OCGが改善すべきポイント
先行1キルに対する規制・対策の強化
今後の遊戯王カードはやはり最低限、先行1キルに対する更なる規制・対策の強化が図られるべきでしょう。先行1キルに対する規制・対策を推進するためには3つの手段があります。
- リミットレギュレーションの見直し
- 手札誘発の強化
- 大会のマナーの呼びかけ
先行1キルに繋がるカードを禁止カード・制限カードに指定しつつ、手札誘発カードの強化によって先行1キルをさらに減らします。手札誘発には賛否両論ありますが、更なる強化は当面は仕方ないでしょう。
そして最後に、大会のマナーの呼びかけ。先行1キルが遊戯王の健全な発展のためにはマイナス要因になり得るということを各プレイヤーに理解してもらうことも大事です。
ファンデッキでも楽しめる環境の構築
ファンデッキでも楽しめる環境をプレイヤーに用意することも大事です。大会デッキとファンデッキでは、デッキの作り込みに質的な差が出てくることは否めません。
しかしファンデッキを組んだプレイヤーが結果的にデュエルの機会が得られなかったり、負け続けるようになると新規層の獲得はしづらいでしょう。どんなデュエリストも最初は「ガチ」ではなく、好きなカードを好きなように使うところからプレイを始めたはずです。
MTGにおける「スタンダード」「モダン」「レガシー」など世代別の大会を用意するのも手?
個人的な意見ですが、MTGにおける「スタンダード」「モダン」「レガシー」といった世代別の公式大会を用意するのが1つの解決策になるのではないかと考えます。
直近に発売された数パックからのみ構築を許可する「スタンダード」。特定のパック以降のカードのみを使える「モダン」。全てのカードを使用できる「レガシー」と大会を明確に分けることで、スタンダード大会には新規プレイヤーでも参戦しやすい環境を作れます。こちらの記事では、遊戯王OCGに「スタンダード環境」を導入すべきか、M:tG・シャドウバースとの比較を通じて詳しく検討しています。
>> 【TCG】「スタン落ち」って悪いこと?なぜ必要?M:tG・遊戯王OCG・シャドバの対応比較