感想『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』!おすすめマジック:ザ・ギャザリング漫画

『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』とは?


『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』はカードゲーム「M:tG」(マジック:ザ・ギャザリング)を題材とした青春漫画です。キャッチコピーは「90年代MTG青春グラフィティ」。

1998年が舞台であり、時代は「ノストラダムスの大予言」による世紀末。主人公はマジック:ザ・ギャザリングに夢中な「中二病」。使用デッキは黒単色。そんな主人公と、白単使いのヒロインのボーイミーツガール。成績優秀なヒロインは学校ではマジックをプレイしていることを隠しています。

そんな二人が関係を縮めていく様子は微笑ましくて、甘酸っぱいです。物語がサクサク進むのも嬉しいポイントで、展開は早め。もともと読み切り作品だったことも、良い方向に影響しているのでしょう、M:tGに関するルールの説明は特にありませんが、注釈が豊富な上に主人公のセリフを追っていけば概ねのルールと展開がわかる程度の描写はされています。

伊瀬勝良×横田卓馬『オナニーマスター黒沢』コンビの最新作


「すべての人類を破壊する。それらは再生できない。」のテーマは、M:tGを題材にした、90年代青春グラフィティ。タッグを組むのはWEB漫画「オナニーマスター黒沢」のコンビ《伊瀬勝良先生×横田卓馬先生》。

伊勢先生が原作を担当し、横田先生が漫画を担当しています。

もともとは『月刊少年エース』で掲載された読み切り作品

2018年の少年エース10月号の読み切り作品で好評を博し、連載が決定した『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』

マジック:ザ・ギャザリングは日本市場では他のTCGに比べるとメディアミックスが弱く『遊戯王』『デュエル・マスターズ』と比較すると漫画やアニメ作品でのヒット作が存在しないのが現実でした。

『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』はボーイミーツガールとしてはもちろんですが、マジック:ザ・ギャザリングの認知度拡大にも貢献しえる漫画作品として期待大です。

M:tGをテーマにしたボーイミーツガール


M:tGをテーマにしたボーイミーツガールである『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』。この作品の魅力・面白さは、一言で表すと「学校の可愛い優等生女子と、マジック:ザ・ギャザリングで真剣勝負しつつ距離を縮めていく」ことにあるでしょう。

主人公・神納 はじめとヒロイン・沢渡 慧美は共に中学生。

原作者の伊勢先生のnoteによると、沢渡慧美は「自分なりの「ゴリゴリのヒロイン」のつもりで書いています。僕もいい歳なので、内面が屈折したヒロインはもういいかなと……。私服は九十年代のアムラーを参考にしました。昨年引退需要で安室奈美恵がブームになっていたから、というのは建前で、あれは僕の趣味です。」とのこと。

「清楚な印象の黒髪ロング」「学校では優等生」「実はマジック:ザ・ギャザリングがめちゃめちゃ強いが、学校ではひた隠しにしている」「学校でマジックのことがバレそうになると赤面してあたふたする」などいわゆる「ギャップ萌え」の要素が満点です。

白単デッキと黒単デッキのデュエルシーンがかっこいい!

『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』は『遊戯王』や『デュエル・マスターズ』の漫画と同様に、純粋にカードゲーム漫画としても楽しめます。

カードゲーム漫画の演出の基本である「モンスターを召喚すると実際に手元にモンスターが現れる」「カードの効果に紐づいた脳内のビジュアルが実演される」「ダメージが与えられるとプレイヤーも痛がる」といった演出が1つ1つ丁寧に行われます。

ヒロイン・沢渡慧美は白単デッキ使い。黒単デッキ使いの主人公との、1巻でのデュエルシーンはカードゲーム漫画として純粋にかっこいい仕上がりです。

カードはいずれも実際のM:tGに存在するもののため、レガシー環境で主人公たちの回し方を再現してみるのも楽しいですよ。

登場人物

『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』はボーイミーツガール!主人公の男の子とヒロインの女の子の関係性が、大きく物語を動かしていきます。

主人公とヒロインのキャラクターを紹介します。

神納はじめ

画像の向かって右手が主人公の神納 はじめ。

マジック:ザ・ギャザリングにどっぷりハマっている中学生で、使用デッキは黒単。黒はM:tGでは「死と力」の象徴。沼からマナを引き出し、デーモンやゾンビを召喚します。邪悪性の強い色であり、ライフコストをやクリーチャーの生け贄を求めたり、敵味方双方にライフの支払いを求めるなどハイリスクなカードが多いです。

学年2位の成績を誇る学業優秀ぶりですが、周囲からはオタク扱いされています。

ヒロインとの出会いやカードショップでのデュエル経験を通じて、黒単から多色化への展開をほのめかす場面も物語の比較的序盤に存在します。主人公のデッキ構築の変遷を追うのも楽しいです。

沢渡慧美

向かって左手がヒロインの沢渡慧美。

成績学年トップの美少女で、髪型は清楚な黒髪ロング。「ごりごりのヒロイン」という作者の談も頷けるキャラクターです。学校ではカードゲームを「子供っぽい」と一蹴しつつ、裏ではコソコソプレイしていて、しかもかなりの実力者という二面性を持ちます。

使用デッキは白単。M:tGにおける白は防御と軍勢、法律、政治の色であり、平地からマナを引き出して人間や天使を召喚。ライフ回復手段が豊富で、ダメージ軽減も得意。除去や相手の行動のロックも得意とします。

ヒロインが学校でマジック:ザ・ギャザリングをプレイしていることを隠しているのは何故なのか。

主人公が1巻でヒロインに訊ねますが、ヒロインからはこれといった返答はありません。この謎が今後の物語に大きく関わっていくのでしょう。下の画像のいかにも「ラブコメ」という雰囲気と、どこか相反するような「すべての人類を破壊する」というフレーズ。そして「思い出してよね・・・」という一言が意味深です。

舞台は1998年!ハルマゲドンの時代

本作のタイトルはマジック:ザ・ギャザリングのカードテキストのパロディであると同時に、舞台である1998年の時代背景を踏まえたものでもあります。1998年はノストラダムスの大予言の時代でした。

90年代に青春を送った読者の心をくすぐるディテールが盛りだくさん

ヒロインのファッションから、登場人物の会話にさりげなく差し込まれる『ポリンキー』のCMネタ。MD、深キョン、GLAYなど様々な90年代ネタが豊富に盛り込まれています。

そもそもマジック:ザ・ギャザリングもまた多くの読者にとって「90年代ネタの1つ」という捉え方もできるでしょう。例えば1999年から2011年までコロコロコミックに連載されていた『デュエル・マスターズ』はその名の通り、デュエル・マスターズを題材とするカードゲーム漫画です。

しかし、実は2001年までは主題となるカードゲームはマジック:ザ・ギャザリングでした。漫画で取り上げられるカードゲームがデュエル・マスターズに移行したタイミングで、M:tGからデュエル・マスターズに乗り換えた読者もいるでしょう。

またこの時期は遊戯王OCGが爆発的な人気を得た時期とも重なります。M:tGもこの作品の90年代ノスタルジアを加速させる1つの材料と言えるかもしれません。

主人公の黒単へのこだわりを語るシーンの「たとえ」がたまらない

ちょっとした本作のハイライトが、主人公が何故M:tGのデッキ構築において「黒単」にこだわるのかを聞かれるシーン。主人公の黒単へのこだわりは単なる中二病であり「かっこいいから」というもの。

ブラックビスケッツや仮面ライダーBLACKなど、黒をテーマカラーとした作品や音楽が好きなようです。このどちらも90年代に青春を送った人には懐かしい題材ですね。

ブラックビスケッツ

ブラックビスケッツ タイミング

仮面ライダーBLACK

仮面ライダーブラックOP

昔のM:tGのカードが新鮮!

昔のM:tGの環境で活躍していたカードが次々に登場するのも、本作の楽しいポイント。

例えば《生命吸収》。

Drain Life / 生命吸収 (X)(1)(黒)
ソーサリー
Xは黒マナでしか支払えない。
クリーチャー1体かプレインズウォーカー1体かプレイヤー1人を対象とする。生命吸収はそれにX点のダメージを与える。あなたは、与えられたダメージに等しい点数のライフを得る。ただし、その点数はそのプレイヤーのダメージが与えられる前のライフの総量、そのプレインズウォーカーのダメージが与えられる前の忠誠度、そのクリーチャーのタフネスを上回ってはならない。

マジック:ザ・ギャザリングの黎明期から活躍したドレインカードの始祖的な存在で、黒を象徴するカードです。本作では主人公・はじめが使用しました。

対戦相手へのダメージと自分の回復を兼ねており、Xの値や対戦相手に与えるダメージには上限がありません。一方で自分の回復量には制限があり、プレインズウォーカーの忠誠度とクリーチャーのタフネスを上回る値の回復はできません。

90年代のM:tGの大会優勝デッキによく取り入れられていた一枚です。

『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』1巻感想

前述してきたように、90年代ノスタルジア要素と「ごりごりのヒロイン」の可愛らしさ、M:tGのデュエルがからまりあった絶妙なバランスに仕上がっている本作。

実際の90年代M:tGでは、中学生の女子がカードショップでデュエルをすることはまず無かったと言っても過言ではなく適度なフィクション性やラブコメ性も読んでいて楽しいです。他のカードゲーム漫画のような大仰な召喚口上等は特にありませんが、絵が綺麗で、ダメージ描写やモンスターの描きこみが丁寧かつアクション性に富んでいて、M:tGに詳しくない読者でも雰囲気でデュエルの展開を把握できるでしょう。

ヒロインの謎もまだ解けてはいないため、適度に2巻以降への引きが残っています。

1巻のプロモカードは《悪魔の布告》

1巻のプロモカードは《悪魔の布告》。M:tG往年の黒インスタント除去であり、1巻のプロモカードとして新枠デザインで蘇りました。

『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』2巻感想

2巻は東京の大きなショップ大会に出場するため、東京遠征をする主人公とヒロインのエピソードがメイン。2巻のラストでは、この物語全体が成長したヒロインの回想だったと思われるコマが登場します。

甘酸っぱくも楽しいM:tGの日々が終わりを迎えるのか。主人公とヒロインの関係はどうなっていくのか。中学生ならではの受験や進学といった通過儀礼と、M:tGを両立させることはできるのか。不穏さを残す巻でした。

2巻のプロモカードは《ショック》

2巻のプロモカードは《ショック》。赤の基本的な火力呪文です。M:tG創世記から存在するカードで、1マナのインスタント呪文。相手の小粒なクリーチャーを攻撃したり、相手の残り少ないライフを削りきるためのカードとして使われます。

《悪魔の布告》と同様に、人気プロモとなりそうですね。