2019年12月「ジャンプフェスタ2020」にて、遊戯王の新たなデュエル方式「遊戯王ラッシュデュエル」が発表されました。遊戯王ラッシュデュエルは、2020年4月に放映開始する「遊戯王SEVENS」と同時期から第一弾のパック展開を開始します。
- ラッシュデュエルとはそもそもどのようなデュエル方式なのか。
- ラッシュデュエルを導入する狙いは何か。
- 遊戯王ラッシュデュエルと遊戯王OCGはどのように棲み分けるのか。
- KONAMIはリンク召喚の導入〜アニメ「遊戯王VRAINS」までの一連の試みを「失敗」と捉えているのか。
1つ1つ検証していきましょう。
ラッシュデュエルとは?
ラッシュデュエルとは2019年12月開催「ジャンプフェスタ2020」で発表された新アニメシリーズ「遊戯王SEVENS」で登場する、新たな遊戯王カードのデュエル方式。
遊戯王OCGの新マスタールールやカード群とは明確に棲み分け、「遊戯王」から登場する新たなカードゲームに位置付けられます。
ラッシュデュエル専用ルール詳細
ラッシュデュエルには3つの特徴があります。
ラッシュデュエル専用カード | 従来の遊戯王OCGのカードデザインから一新された、新たな専用カード |
連続召喚 | 1ターンでモンスターを何体でも召喚可能 |
大量ドロー | 毎ターン手札が5枚になるようにドロー |
ラッシュデュエル専用カードの例
ラッシュデュエル専用カードの例として《セブンスロード・マジシャン》を挙げます。
《セブンスロード・マジシャン》は新シリーズ「遊戯王SEVENS」の主人公・王道遊我が使用するエースモンスター。王道遊我はゴーハ第7小学校に通う小学5年生。好きなことはデュエルと発明。大人たちが考えるデュエルを退屈だと考えており、自分の考えたルールでデュエリストを楽しませることを夢見ています。
《セブンスロード・マジシャン》の効果やカードテキストは2019年12月現在、未だ不明。ただし攻撃力・守備力はそれぞれ「2100」「1500」であることがわかっています。遊戯王シリーズとしては、実はこの設定は異色です。
遊戯王では、初代エースモンスター《ブラック・マジシャン》以降、《スターダスト・ドラゴン》《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》《F・W・D》など主人公のエースモンスターの攻撃力は2500であることが「お決まり」だったからです。
「遊戯王SEVENS」とラッシュデュエルの関係
2020年4月に放送開始する「遊戯王SEVENS」。同時期に「遊戯王ラッシュデュエル」の第1弾パックが発売となります。
「遊☆戯☆王 デュエルモンスターズ」以降、「遊戯王VRAINS」に到るまで20年弱に渡ってアニメ「遊戯王」は遊戯王OCGを題材とし、作品の世界観設定とマスタールールが密接な関係を保ってきました。
しかし「遊戯王SEVENS」は新カードゲーム「遊戯王ラッシュデュエル」を題材とすることとなります。「遊戯王SEVENS」以降のアニメ作品も、仮に「遊戯王ラッシュデュエル」を題材として扱う場合、遊戯王OCGのメディア展開は今後更なる変化が予測されます。
ラッシュデュエルを新規ルールとして展開する意図は何?
初心者・低年齢層ユーザーの獲得
遊戯王ラッシュデュエルを、従来の遊戯王OCGとは別のカードゲームとして展開する最大の意図は「初心者・低年齢層ユーザーの獲得」にあるでしょう。
遊戯王OCGはしばしば「オワコン」「つまらない」と批判されており、その理由の1つには「大会環境がガチすぎる」「ゲームスピードが早すぎる」など初心者にとってのハードルの高さが挙げられます。
初心者・低年齢層ユーザーの獲得に向け、現行の遊戯王OCGよりも高速化・シンプル化したデュエル方式を提供することは一定の効果が期待されます。遊戯王OCGの場合、スマホユーザー向けにライフポイントを4000に指定。「スキル」「スピードデュエル」を導入したデュエルリンクスの存在が近い事例に挙げられます。
マジック:ザ・ギャザリングとデュエル・マスターズの関係に近い?
遊戯王OCGと遊戯王ラッシュデュエルの関係性は、既存のTCGに置き換えるならばマジック:ザ・ギャザリングとデュエル・マスターズの関係に近いです。
マジック:ザ・ギャザリングとデュエル・マスターズは兄弟関係にあるTCGであり、前者が兄、後者が弟。デュエル・マスターズはマジック:ザ・ギャザリングをベースに日本向けに開発されたTCGで、マジック:ザ・ギャザリングに比べるとより低年齢層向けへとルールがシンプル化。なおかつカードデザインが見直されています。
マジック:ザ・ギャザリングとデュエル・マスターズの関係はこちらの記事でまとめています。遊戯王OCGは、遊戯王のIPをベースにマジック:ザ・ギャザリングのように競技性が高く、プロ志向のTCGへと進化。一方で遊戯王ラッシュデュエルは、デュエル・マスターズのようにまずは低年齢層に訴求。市場が成熟してきたら、こちらもプロ志向に舵を切るのかもしれません。
ラッシュデュエルは実質的な遊戯王OCGの「スタン落ち」なのか?
遊戯王ラッシュデュエルの登場は、遊戯王OCGのデュエリストの間で波紋を呼びました。発表時点では遊戯王OCGと遊戯王ラッシュデュエルは別ゲームと位置付けられてはいます。しかし、どちらも同じ原作を持つTCG。相互互換性を持つようになる可能性も十分にあります。
すると遊戯王OCGが、M:tGにおけるレガシー環境。遊戯王ラッシュデュエルがスタンダード環境と位置付けられ、遊戯王ラッシュデュエルの存在が実質的な「スタンダード環境」になるのではないかという懸念があるのです。
「20周年のアニバーサリーイヤーを終えた後、膨張したカードプールを一新。「スタン落ち」を導入し、新規ユーザーへの間口を広げる構想があるのではないか?」という推測は、遊戯王ラッシュデュエルの登場前からデュエリストの間でささやかれていました。
遊戯王ラッシュデュエルの登場は、遊戯王OCGへの「スタン落ち」導入へと繋がる可能性があるのでしょうか。スタン落ちについてはこちらの記事でも解説しています。
「専用カード」が何を指すのか現時点では不明瞭
遊戯王ラッシュデュエルでは、ラッシュデュエル向けの「専用カード」が登場するとのこと。しかし、厳密に「専用カード」が何を指すのかはやや不明瞭です。
ラッシュデュエルは「ラッシュデュエル専用カード」しか使えないのか。それとも専用カード”も”使えるという意味なのか。将来的にOCGとラッシュデュエルで相互互換性を持たせる構想はあるのか。いずれも定かではありません。
OCG・ラッシュデュエル間に共通カードが出る可能性もある
既に《青眼の白龍》はOCGから出張する形で、ラッシュデュエルにおいてもカード化されることが決定しています。今後もOCG・ラッシュデュエルの双方で共通カードが出る可能性は大きいです。
ラッシュデュエルはラッシュデュエル専用カードのみで、ラッシュデュエルの専用ルールで戦うスタンダード環境。遊戯王OCGはラッシュデュエル専用カード”も”使うことができるレガシー環境へと時間をかけて徐々に変わっていく可能性を秘めています。
新マスタールールがレガシー環境に位置付けられる?
「ラッシュデュエルはラッシュデュエル専用カードのみで、ラッシュデュエルの専用ルールで戦うスタンダード環境。遊戯王OCGはラッシュデュエル専用カード”も”使うことができるレガシー環境へと時間をかけて徐々に変わっていく可能性を秘めています。」という予測が当たっていた場合、実質的に遊戯王OCGの新マスタールールは、レガシー環境へと様変わりします。
するとラッシュデュエルのデュエリストにとって、レガシー環境はカードプールが広すぎるという課題が生まれます。2020年4月に初めてパックが登場するラッシュデュエルに対し、遊戯王OCGは1万種を突破するカードプールを持ちます。
ここの課題をどう解決するか。正直に言って、KONAMIからしても「検討中」でしょう。スタンダード環境とレガシー環境の間に、クッションとなる「モダン環境」を設けるのか。それとも、そもそも互換性を設けないのか。
どのように課題を解決するかは、ラッシュデュエルが市場にどのように受け止められるかにかかっています。
「遊戯王SEVENS」とラッシュデュエルが低年齢層に根付くかがカギ
遊戯王SEVENSとラッシュデュエルが、低年齢層にしっかり受け入れられる人気コンテンツになれば、低年齢層の視聴者の成長に並走するようにして数年〜10年弱の歳月をかけて、遊戯王OCGとラッシュデュエルの相互互換性が高まっていくでしょう。
逆に低年齢層に根付かなかった場合は、遊戯王SEVENSの放映終了とともにラッシュデュエルの商品展開も終わるはずです。遊戯王ラッシュデュエルの商品展開は、ここから3年がカギです。
KONAMIはリンク召喚の導入〜アニメ「遊戯王VRAINS」までの一連の試みを「失敗」と捉えているのか
「遊戯王SEVENS」の前作に当たる「遊戯王VRAINS」は、遊戯王のアニメシリーズとしては高めの年齢層をターゲットとしており、なおかつリンク召喚を含むデュエルの描きこみが忠実かつ省略がないことが特徴でした。
しかし、「遊戯王VRAINS」は打ち切り。なおかつ12月の「ジャンプフェスタ2020」でマスタールールの改定が発表され、融合・シンクロ・エクシーズモンスターはエクストラモンスターゾーンだけでなく、自分のメインモンスターゾーンにも展開できるようになりました。これまではエクストラモンスターゾーンに展開されたリンクモンスターの、リンクマーカーの指し示す先だけにしか、特殊召喚することはできませんでした。
このマスタールールの改定は、リンク召喚をルールに導入した意義を実質的に否定したものと言えます。リンクモンスターはこれまで通りエクストラモンスターゾーンに展開することになりますが、リンクモンスターおよびリンクマーカーの意義が「リンクマーカーの指す先のモンスターに何らかの効果を与える」だけ。もちろん各効果は「それはそれで強力」ですが、「召喚方法を1つ増やしてルールを複雑化したこと」「ユーザー離れを引き起こしたこと」「リンクモンスターを次から次へとカードプールに追加したこと」に見合うほどの効果があったのでしょうか。
結果論にはなりますが「特定のモンスターに何らかの効果や体制を与えるだけ」であれば、既存の魔法・罠カードや効果モンスターの強化だけで十分であり、リンク召喚の導入という大々的な召喚方法の改定は不要だったのではないかという疑念があります。
「遊戯王VRAINS」よりもむしろZEXALに近い、アニメシリーズのターゲット層の低年齢化。新マスタールールによる実質的な「リンク召喚の大幅な見直し」。この2つを踏まえると、KONAMIはリンク召喚導入〜「遊戯王VRAINS」までの、一連のOCGとアニメシリーズ展開を「失敗だった」と位置付けて反省しているものと見受けられます。
その反省を踏まえた上で、新マスタールールをリンク召喚導入前の遊戯王OCGに近づけ、20周年を機に遊戯王OCGに戻る復帰組の受け皿を用意。さらに低年齢層に向けては、遊戯王ラッシュデュエルというシンプルなルールを用意したのでしょう。
いずれも前向きかつ興味深い試みです。管理人自身も2019年4月に遊戯王ラッシュデュエルの第一弾パックが登場したら、当サイトで積極的に取り上げていきたいと思います。